3月17日、ドルチェ・アートホール Nagoyaで開催された、ジャン・フェランディス氏のフルートリサイタルに行ってきました。
世界的に有名なフルーティスト、とはいえ、一人の人間なんだということ。
ではその圧倒的な存在感と深い音楽はどこからくるのか?ということ。
「ただ上手い」ということ以上に、「生き方そのものが音に出ている」ということを、実感させられる演奏でした。
そして今回、私はひとりの演奏家としてだけでなく、メンタルトレーニングやエニアグラム心理学を取り入れてレッスンを行っている講師の立場として、彼の演奏にいろんな気づきをもらいました。
この記事では、「どうすれば本番で自分の音が出せるのか」「自分らしい音楽って、どうしたら見つかるのか」
そんなテーマで、皆さんのヒントになるようなことをシェアしたいと思います。
「こんな大ベテランでも、緊張するんだ」
当日は前から2列目という、かなり近い席で聴いていました。
演奏が始まる前の目線のうごき、呼吸、
そしてふと彼の手元を見ると、ほんの少し震えていました。
耳も赤くなっていて、「あ、緊張してる」とすぐにわかりました。
思わず「わあ…」と心の中で声が漏れました。
世界中で演奏してきた大ベテランが、アジアの地方都市のこんな小さなホールでも、本気で向き合って、ちゃんと緊張している。
「この人は本当に素晴らしい演奏家だな」と思いました。
そして何より、こんな世界的な人でも緊張して震えているなら、
自分が緊張したり、震えたりしていても何もおかしくはないと思ったのです。
緊張しても、震えても、それでも音楽はできる
演奏自体は、正直ものすごく安定していた!とは言いづらいかもしれません。
でも、むしろそれが良かった。
その“余白”があったからこそ、聴いている側も自然と集中し始めます。
客席にも「よい緊張感」が伝わっていくのを感じました。
私自身もそうですが、本番に弱いと感じている方にとって、「緊張をゼロにする」ことを目指すのは、実はあまり現実的ではありません。
それよりも、「緊張していても動ける自分」を確立していくこと。
それが、メンタルトレーニングで伝えている本質でもあります。
表現に“正解”はない。「自分の感じたまま」でいい
フェランディスさんの演奏には、随所に「自分らしさ」がありました。
たとえばC.フランクのソナタ第4楽章。
3楽章のモチーフが再登場する場面で、まるで3楽章に戻ったかのような雰囲気で吹いていたのです。
たぶん普通なら、テンポの変化の指示もないですし、そのままの流れで吹くべき、と考えることが多いと思う箇所ですが、彼は明らかに、“自分の解釈”で吹いていました。
その瞬間、私の中では「あ、こういう演奏もアリなんだ」と、すごく腑に落ちたのです。
技術だけではない。「性格」も、演奏スタイルに深く関わっている。
フェランディスさんを見ていて、おそらくエニアグラムのタイプは
タイプ4ウイング5だと感じました。
タイプ4は、独自性を大事にする芸術家タイプで、
そこに探究心や知的なこだわり(タイプ5)が合わさっている人のこと。
- 誰かの正解より、自分だけの“意味”を大事にする
- 表面的な上手さより、「本質」に触れたい
- ひとりの時間が必要で、人に見られるのはちょっと怖い
- でも、心の奥にはものすごい情熱がある
私自身もタイプ4ウイング5なので、とても共感できるのですが、
本番前にナーバスになったり、練習しても「まだダメ」と思ったり、誰かと比べて勝手に自信を失ったり。
でもそれは、豊かな感受性があるからこそ起きることなんですよね。
場の空気とか、非言語で伝わってくる他人の気持ちなどに対するアンテナの感度が人よりも高いのです。
もちろんこれは長所でもあります。
性格に合った準備・本番のスタイルを選ぼう
今回のプログラム構成は、フェランディスさんの「自分のペース」「自分のやりやすさ」がすごく考えられていると思いました。
・前半に静かな曲(集中の立ち上がり)
・後半に自由度の高い曲、得意なスタイル
・最後にテクニックが光る曲を配置
これには、無計画な曲順ではなくて、自分の気質に合った流れの設計を感じました。
生徒さんの中でも、たとえば
- 最初は指がまわらないからゆっくりな曲から始めたい人
- 伸ばす音が緊張するから、動きの多い曲がいい人
- 得意な曲は最後にやりたい人
など、得意なこと・苦手なことが人によって分かれますよね。
フェランディスさんの今回のリサイタルでは、普通ではあまりないような曲順になっていました。
(たとえば、大きなソナタを前半、バロックものを後半にする、など。普通だったら逆にすることが多いんです。)
けれど考えてみれば、そんな型に必ずしもはめなければいけないという決まりはどこにもなく、自分が最大のパフォーマンスを発揮することを最優先するなら、「自分の特性に合ったやり方」を選んでいけばいいのです。
よく、周りに合わせなきゃいけない、普通はこうするから、という考えに縛られがちな人がいますが、
そんな視点を持つだけで、本番の乗り越え方がまるで変わるのだと思いました。
自分を知ると、音楽がもっと自由になる
タイプ4の特徴として、「自分が思う音楽をしたい」「他の誰とも違う自分でいたい」という欲求が根底にあります。
でもその一方で、「これでいいのかな」と不安にもなりやすい。
そういうとき、私はエニアグラムの知識がとても助けになっています。
自分の「性格タイプからくる固定された価値観」や「思考パターンの傾向」がわかると、そのうえで演奏をどう調整したらいいかが見えてくるのです。
最後に:あなたの“演奏スタイル”は、あなたの中にある
ジャン・フェランディスさんの演奏を聴いて、私はこう思いました。
・世界的音楽家も、根本は普通の人間。
・音楽に正解はない。
もしあなたが、本番で緊張してしまったり、「自分の音が出せない」と悩んでいたりしたら、それは単なる“実力不足”だけではないかもしれません。
性格の傾向や、心の奥底を知ることで、「あ、自分はこうすればうまくいくんだ」という方法がきっと見えてきます。
当教室では、演奏指導に加えて、エニアグラムやメンタルトレーニングを取り入れながら、一人ひとりの「音楽とのちょうどいい距離感」を一緒に探していきます。
あなたが、あなたらしく音楽とつながるヒントになれば幸いです。
演奏家としての視点から書いた別記事もあります。
本番のリアルな様子やキャリア選択について綴った内容です。ぜひ併せてお読みください。
